ニャーヌッタラ大長老の説法
02

仏陀の智慧と世間の知恵

2008(平成20)年5月17日
於 観音寺

この世界の中で生きていくためには、また世界で成功するためには、必要な知識と技能、そして人生の先輩や、人生の経験者から様々な人生の知恵を学ぶことが必要です。
生まれてから一番初めの先生は親といわれます。親は皆さんの命の恩人であり、そして人生の先生であり、たくさんの生活の知恵を教えてもらっています。

次には学校の先生です。必要な知識や社会的ルールや社会で生きていくための知恵を学びます。実はそれだけではなく、世界は我々の先生なのです。学ぶ心があれば、様々な世界のことを学んで世間の知恵は高くなります。そして世界の中で成功することもできるでしょう。
世間の知恵は人生にとって、とても大事なことの一つです。ところが仏陀であるお釈迦さまは、このような世間の知恵だけでは間に合わないことがあるとおっしゃいました。
この世界でどんなに頑張ってみても、誰も人間、神々、四悪趣の生・老・病・死の苦しみから完全にのがれることはできない。王様でも、大金持ちでも、偉い学者でも、偉いお医者さんでも、みな平等に生・老・病・死などの苦しみはやってきます。

それだけではない。そのほかの苦しみもあります。
“愛別離苦”、愛する人と別れなければならない苦しみです。愛する人との生き別れ、死に別れ、その苦しみも皆さんわかっています。
またもう一つの苦しみは、日本の言葉では“求不得苦”といわれます。この苦しみの意味は求めても得られない苦しみです。この苦しみも皆さんの日常生活の中でたくさん出会っています。
もう一つの苦しみは“怨憎会苦”です。怨憎会苦とは嫌いな人と会わなければならない苦しみ。この苦しみも皆さんの日常生活の中でたくさん出会っています。

このような心の苦しみ、体の苦しみはつきることはありません。世界の知恵だけではどうしょうもなく解決できない“生命存在”の苦しみがあることを知らなければなりません。
そこでお釈迦さまは、その苦しみを超越するための“普遍的真理”を特別の智慧で識られ、「四つの聖なる真理」つまり日本の言葉では「四聖諦」として教えられました。
この四つの真理は日本の言葉では、苦・集・滅・道の真理と訳されております。これが“仏陀の智慧”の根本なのです。
皆さんが理解できるように説明するのは大変難しいのですが、少しだけ説明しましょう。

“苦の真理”とは何でしょうか。
“苦”とは生まれ変わりの輪廻の中で四悪趣、人間、神々などに生まれることで、避けがたい“生老病死”の苦しみ、また、怨憎会苦、愛別離苦、求不得苦などの苦しみは苦の真理です。

次に“集の真理”とは何でしょうか。それは“苦の原因”のことであり“渇愛、執着”が原因であるという、苦の原因の真理です。

“滅の真理”とは何でしょうか。
“苦”と“苦の原因”である渇愛、執着が滅した状態、即ち涅槃の真理です。

四番目の真理“道の真理”とは何でしょうか。
苦と苦の原因が絶滅した涅槃に至る聖なる道の真理です。日本語では聖なる八正道といいます。

では八正道とは何でしょうか。
八正道は実践的には“戒・定・慧”に分けられますが、まず戒は自分の身の行為、口の行為を守る戒であり、“定”とは自分の心が清浄になるための禅定のことであり、“慧”とは正しい真理をわかる智慧のことをいいます。
この四つの真理がわかることが、そして実践することが、仏陀の智慧なのです。

仏陀の智慧には段階があります。今日は初めての方が多いので、仏陀の智慧の入り口である一番初めの智慧についてだけお話ししたいと思います。
お釈迦さまのお口から出た言葉をパーリといいますが、パーリでは一番初めの智慧を「カンマサカター智慧」といいます。日本語に訳しますと「カルマを自己とする」という意味になります。

それではカルマとは何でしょうか。
カルマとは日本では“業”という字があてられているようです。これは自分の身体の行為、口の行為、心の行為をさせるエネルギーのようなものであり、心の成分、心の要素のようなもので、パーリでは“心所”といいます。
この心所は、善なる心所と不善なる心所に分けられます。
善なる心所とは、慈悲の心、美しい心、真理がわかる智慧の心、正しいことを信ずる心等です。反対の不善なる心所とは、貪り、瞋り、無明などがあります。

誰でもどんな生き物にも、善い行為や悪い行為が生まれます。この二つの行為のエネルギーがそれぞれにふさわしい結果を生じさせます。つまり善因善果、悪因悪果のことです。
この原因・結果の法則を正しく理解するのが一番初めの「カルマを自己とする智慧」なのです。「自分自身の行為の結果が自分自身」であるのです。輪廻の中では、無限の自己責任を自覚して生きていかなければならないのです。他のせいにしても始まりません。自分自身が善い心で、善い行為をしなければ善い結果は得られないのです。

仏陀の智慧がわかるために、まずこの根本的な一番目の智慧がわかることが大事なことです。
ですから今の自分は過去のカルマの結果であり、そして過去のカルマと現在のカルマの両方で未来に善と悪の結果をもたらします。
この智慧のある人は自分の未来のために、今、今現在、自分の行為が悪くならないように、進んで善い行為を行うように、功徳を得ることにいつも努力することになります。

次には、慈悲の瞑想や智慧を得るためのヴィパッサナー瞑想を実践することで、どんどん智慧が高まり、いつかは完全に苦しみを超越する覚りの智慧に到達するのです。
お釈迦さまも生命存在の究極の真理を識る智慧を得るために、この根本的なカルマを自己とする智慧とヴィパッサナー智慧に基づいて、解脱の道の智慧、果の智慧を得て四つの真理がわかり、一切の智慧を得て仏陀になりました。

それでは完全な安楽・完全な幸福を得るために、お釈迦さまの究極の真理がわかる智慧を得るための、七つのことを申し上げます。
その七つのこととは、

  1. 正しい真理のことがわかる智慧ある人に繰り返し繰り返し質問して研究してください。
  2. 自分の身体と自分の周りを清潔にして生活をする。汚くしている人、片付けることができない人には智慧が出ません。
  3. 正しいことを信じ、正しい念(念とは注意集中すること)をもち、正しい精進努力をし、正しい精神集中をする。
    この四つのバランスがとれているとき、正しい智慧が出ます。この中で一番大切なことは正しいことを信じることです。
  4. 智慧のない人に親しまずに避けることです。
  5. 智慧ある人を探して近くに住んでください。
  6. 深い真実なるものを探求してください。
  7. 正しい真理を求める心を強くするのが大事なことです。

仏陀の智慧が欲しい人は、この七つを実践してください。必ず智慧の道に入れます。
この智慧の道は、今の人生の途中でも必ず楽になります。死んだ後も楽を得ます。皆さんも智慧を得たいと思う人は、このような結果が必ず現れますので、難しいと思わないで一つ一つ実践をしてみてください。
ここで今日の説法は終わります。皆さんの心に入ったかどうかわかりませんが、今日お会いした縁で、ぜひ皆さんがお釈迦さまとのご縁が、ますます深くなりますように、そして皆さん元気で幸せでありますように、念じまして終わりたいと思います。

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