ニャーヌッタラ大長老の説法
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世界から解脱するための5つのこと−2

2008(平成20)年1月15日ウポサタ
於 淨心庵精舎での夜の法話

1.正しいことを信じること

パーリでサッダー。正しいことを信じること。これが根本です。これはお釈迦さまの教えを受け取るための手のようなもの。人生を善くするための土台です。この「正しいことを信じること」がなければ何も出来ない。
ヴィパッサナーを正しく実践する人には、ヴィパッサナーの智慧があります。このヴィパッサナーの智慧で自分自身の信(サッダー)を観察・洞察してください。自分の信じること(サッダー)をヴィパッサナーの智慧で観ることはナーマ(心)の対象を観察することです。この根本的な「正しいことを信じること」があるから、お釈迦さまの教えを実践することができます。このような説法を聴くこともできます。実践によって、自分の戒律、禅定、ヴィパッサナーの智慧がもっと高くなります。

この自分の心の中にある正しいことを信じる心(サッダー)はヴィパッサナーの智慧の眼ではっきりと観ることができます。これは皆さんの人生が成功するように導く根本的な土台です。自分の信じることが正しいか正しくないか、これが大事なことです。誰でも何かを信じています。いろいろなことを信じています。皆さんもこのような仏法僧、三宝に出会う前には何を信じるのがいいかどうか、ナーマ(心)という対象の中で、いろいろな信(サッダー)が出たと思います。
間違ったことを信じることもあります。正しいことを信じることもあります。自分の信じることが正しいか正しくないか、前は分からないですから迷うこともあったと思います。お釈迦さまの教えに従って実践すれば、長老が教えなくても自分の信じることが正しいか正しくないか自分自身で判断できる時がやってきます。そのとき、皆さんの智慧で判断してください。
三宝の力、戒律の力、禅定の力、ヴィパッサナーの智慧の力、これらの戒・定・慧の力で皆さんの信じる心(サッダー)はもっともっと高くなって自分自身の智慧で正しい判断をすることができます。そのとき、自分の信じることが正しいこととはっきりわかるから、もっともっとうれしくなると思います。
間違ったことを信じることもあります。正しいことを信じることもあります。正しいか正しくないか、自分自身ではっきりわかるためには戒・定・慧を実践することが大事なことです。 戒・定・慧を実践すれば、どんな教えでも自分自身で正しいか正しくないかはっきりとわかります。

お釈迦さまはこのように教えられました。「来てください」「見てください」「どうぞ、来てください。見てください」自分自身で来て見て実践したら、そのお釈迦さまの教えが自分自身の体験ではっきり分かります。
間違ったことを信じる人は自分自身を信じられない、周りの人も信じられない、自分の仕事も信じられない、自分の行いにも間違いが多いです。根本的な信じる事が間違っているから、この人の生活はとても大変です。
正しいことを信じる人は自分自身を信じています。周りの人からも信頼されます。自分の信じる心(サッダー)をはっきりとわかっています。このように信じる心(サッダー)がわかるための智慧が生じると、もっと信じる心が高くなります。 智慧が生じない限りは迷っています。この人の信は智慧を伴った信となります。信(サッダー)だけでは足りない。信(サッダー)と智慧(パンニャー)のバランスが取れているとき、自分の道を間違わない。 正しいことを信じる人は、自分自身を完璧に信じています。信じる力があります。自分自身の信じる力が強くなるためにはどうすればいいでしょうか。そのためには、正しいことを信じてください。これが大事なことです。自分自身の眼で見て、耳で聴いて正しいことを探してください。自分自身で探した正しいことを信じてください。

それでは、仏教での正しいこととは何でしょうか?
仏教での正しいこととは、ブッダ—お釈迦さま、ダンマ−お釈迦さまの教え、サンガ—お釈迦さまの弟子、日本語では仏・法・僧。この三宝を信じることが仏教での正しいことを信じることです。
この三宝を信じることを根本として実践すれば、戒律・禅定・智慧が高くなればなるほど、心と身体を分けて観る智慧が顕れます。そして、善因善果・悪因悪果、つまり、善い原因は善い結果を生む、悪い原因は悪い結果を生むという教えを信じることが本当に強くなります。それだけではなく、さらに、輪廻転生を信じています。輪廻からの解脱を信じています。輪廻から解脱して涅槃に向かう預流果(よるか)、一来果(いちらいか)、不還果(ふげんか)、阿羅漢(あらかん)の聖者の段階を信じています。道の智慧・果の智慧・涅槃を信じています。
このような正しい教えに対する「信」がもっともっと高くなります。このことを「正しいことを信じること」といいます。このように、自分の戒・定・慧がもっと高くなるように「正しいことを信じること」は、涅槃への因縁になります。このことを皆さん信じてください。
それではこのくらいで、なぜ、お釈迦さまは1番目に「正しいことを信じること」が大事なことと教えられたのかわかったと思います。このように、正しいことを信じる心が強くなったら、いつかには世界から解脱できます。この世界の中でも、より善く生きることができます。だから、この信(サッダー)がなくならないように、自分の心を保ってください。

(次号へ続く)

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